「あれ? それって」
突然の声に驚いたらしく、テクト・フォーライツは目をぱちくりとさせて顔を上げた。
午後の気だるい日差しに照らされた、窓際のテーブル。
行儀悪く片肘を突いたままこちらを見上げてくる丸い目からは、とてもじゃないけれど一国を救った英雄だなんてイメージは沸いてこない。
もっとも、それははす向かいのテーブルで嬉しそうに揚げアイスをほおばっている我らが軍主君を見ても同じことなんだけど。
「えぇと、マドカ、さん?」
テクトは眉を寄せつつ、首をかしげる。
あんまり歓迎されてないって分かる、困惑の表情。それに気付かない振りをして、私は彼の隣の椅子を引く。
「こうして話すのは初めまして、かな」
「……そう、だね」
居心地悪そうに頬を掻く青少年。
通りかかったミルカにコーヒーを頼んで、私はテクトの手中にある小さなアイテムを指先で突付く。
「随分面白いもの持ってるのね、青少年」
「え?」
テクトの困った顔が、少しだけ変る。なんだか驚いたみたいに。
「これ、何か知ってるんですか?!」
っておいおい、そんなの見ればわかるんじゃないの?
筒状になってて、レンズみたいなのが嵌め込まれてるのに、片一方は曇り硝子で。
モノは大分痛んでるみたいだけど、大事にされてきたんだろう。まだまだ充分、華やかな外装も見て取れるそれは。
「万華鏡、でしょ」
きょとんとした彼の顔はなかなかに幼い。
私は「貸して」と手を伸ばして、筒の端を片目に宛がう。
──ほら、やっぱり。
普段生活していて、そうそう万華鏡を眺める機会っていうのもないのだけれど、小さな子供だった頃、縁日で祖母ちゃんに買って貰ったアレを思い出させる、色鮮やかな花模様が視界に広がって。
「親友の、形見なんだ」
「え?」
懐かしいなあとしみじみしていたら、もっとしんみりした口調に思わず筒から目を離した。
「マイクが──あいつが、ずっと昔世話になった人から、離れ離れになる直前に預かったんだって。いつかちゃんと返しに来いって」
「……そっか。じゃあ大事なものなんだね」
私はそのまま、和装の筒をテクトの手にそっと乗せる。
「俺に残されても、誰に返せばいいのかわかんないんだけどなあ」
寂しそうに苦笑する青少年の瞳は、やけに印象的だった。
4月16日から9月23日までの間Web拍手のお礼として公開していた一幕。「テクト」はCrystallist1のStoryDigestに名前の出てきている「リカルド」と同義です。「リカルド」がデフォルト名、「テクト」はあるプレイヤーがつけた主人公名だったり。