目覚めると、見知らぬ草原に立っていた。

 眠っていた以上、自分は伏していたか、少なくとも座っていたはずなのに、気が付いたときにはそこに立っていたのだ。

 

 周りの草に、踏みしだかれた形跡はない。そう、自分が今居るこのすぐ足元を除くのなら。

 何故自分は今一人で、どうやってここに来たのだろう?

 それを伺おうにも、四方八方ぐるり回って360度、頭上から足下までを三次元的に見回してみても、人の子は愚かアリンコ一匹見当 たらない。

 あ、いや、アリンコなんて遠くにいたら見分けられない物だけど。

 建造物もなければ飛行機も飛んでいない、ただひたすらに続いていく草原に、極々僅かに立体感を与えるのは、まばらに点在している 背の高い樹木。

 杉ではない。それだけは確か。

 葉がほとんど残らない梢には小動物の隠れる余地すら皆無。

 名も知らない落葉樹。

 樹の有り様にしては青々とした、芝系の草。

 風がそよとでも吹かなければ、動くものは自分ばかり。

 

 身動きすれば、足下で何かがキラリと光った。

 

 半分土に埋まったそれを、掘り起こす。

 クレセント錠

の、耳の部分だけ。

 なんだ、と失望しなかったと言えば嘘になる。

 けれどそれを放り出すことはできなかった。

 

 見渡せば一面の草原。

 そこに佇む自分とそこにうずもれていた金属の塊は、どちらともが異質で、この景色にとっては不釣り合いなもの。

 

 

 今の自分に残された、たった一つの文明の痕跡。

 

 

 

 


 

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