サアァァッという音がしたから窓の外に目を遣ってみると、案の定雨だった。
今まで何とはなしに広げていた雑誌を伏せ、全身で雨音を感じてみる。
静まりかえった部屋の中、目を閉じればそこはもう別の空間のようで、雨の他何もない空間に貴方だけが佇んでいる気がした。
そういえば、いつか二人で出かけた時、夕方ごろになっていきなりの土砂降りに遭ったよね。
二人とも傘なんて持ってなかったのに。
そしたら貴方は一瞬顔を顰めてからすぐ苦笑して、
「おかしいな、猫の予報じゃ曇りどまりだった筈なのに」
って。
二人して顔見合わせて、大急ぎで近くのマック飛び込んで……席に着いた途端、大笑い。
周りはみんな子供連れの母親ばかりで、私達だけがびしょ濡れで、
「なんて場違いなトコに来ちゃったんだろう?」
なんて言って。
今考えると別におかしい話でもないってのに、妙に楽しかった。
あーあ。今頃貴方は、何をしてるんだろう?
あんまりあの時みたいな雨音だったからつい思い出しちゃったけど、随分長い事あなたには会ってない。
会いたいな……
なんだかとても。今日は一人でいたくない気分で。けど携帯持って、アドレス帳から貴方の名前を呼び出して、そこでやっぱり手を止めてしまう。
どんな風に話し出そうかって。
だって今、貴方とは大ゲンカの真っ最中で、まだ怒ってるのかもしれないとか、思うと切り出しにくいよ。「会いたい」だなんて。
原因はホント、些細な事だったんだけどなぁ。
街の中歩いてる時も、いつだって気が付くと目で追いかけているのは貴方に似た人影。
ケンカしたその日の帰りだって、探してたんだ、知らないうちに。
わかってる。
永遠に消えないでほしいと思うのは、貴方のいるその風景。
貴方だけはこれから出会う全ての景色の中にいてほしいと、ずっと、ずっと思ってたんだって……
「久しぶり」
そうちゃんとと言えたのは、それからさらに三日後の事。
バイトの帰りに、偶然すれ違ったから。
今度はきちんと喫茶店に入って、アイスティーを頼んで、向かい合って座った。あんまり人で込み合ってないお店。
でも、貴方の恰好がこの前よりもお洒落なのって、私の気のせい? 髪型まで、少し変わってる。
話のきっかけをつかもうとする間に、二人分のグラスはもう来てしまって、なんとなく気まずいまま、私は仕方なくストローを刺した。
貴方はそれを飲もうとするそぶりさえ見せず、冷えたグラスを握ったきり。
貴方はもう、私と話したいことなんて、ないの?
不意に、貴方の心が遥か彼方の、遠くの方にはなれてしまったような、そんな不安が大きくなって、視線を合わせるのも避けてたかもしれない。
だから私自身、自分から話し出すきっかけなんて、わからなくなってしまった。そんな中で、
「今まで、ずっと、どうしてた、の?」
ぽつり、ぎこちない口調で貴方が訊ねたのは、グラスが届いてから十分以上も過ぎてからだった。
私は思わず顔をあげると、貴方は完全に作り笑い。そんな顔で、そんな声して言われたなら、一体なんて風に答えればいいの?
「今までずっと貴方の事ばかり考えてたよ」
なんて、歯の浮きまくるようなセリフでさえシャレにもなんない。あまりにもホントすぎて。
あまりにもわざとらしくて、貴方は本気にしてくれないでしょう? もしも貴方に別の彼女ができてしまったのなら──なんてこと考えるだけで、心が痛くて、苦しくて。
それでもやっぱり、私は貴方の傍にいたいと願うの。
貴方だけだから。
こんなにも強い想いを持ってしまった相手は。
貴方のいる景色が、永遠に無くならなければいい。そして、その傍らに居られるだけでも私は構わないから。
貴方だけが、私の永遠の風景。
下書きしたのがいつなのか実は覚えていない、「永遠の風景」をキーワードにした曲の歌詞を一人称のSSに開いただけのお話です。「私」も「貴方」も具体的に幾つぐらいの誰って何も考えてないやつ。一応偶にこんな感じの話も書くことがありますよってことで。
(20150103)
使用素材配布元:LittleEden