「悪い、遅れたっ?!」

ぼろぼろの格好で現れた長身に、彼女は容赦のない一撃をくれた。

 

「遅い!!」

 

 叫んだ彼女は両手を握り締めてうつむいていた。

 暫し呆然と己を殴った相手を見詰めていた彼は、つと視線を彼女の背後に立つ青年へ向け、唇を噛むときびすを返す。

「そう、だよな。悪い……邪魔、したな」

 そのまま立ち去ろうとした彼の服の裾を掴んで、

「……るさない」

小さな呟き。

 

 

 苦笑してその場を立ち去ったのは、彼女とともに彼を待っていた青年の方だった。

「おい」

 訳がわからず己のシャツを握る小さな手を見下ろした彼は、足元にぽたりとしみができていることに気付く。

「何処、行く気なのよ?! 一生かけて謝り倒さないともう許さないんだから!!」

「ぇ」

「あんたが本気ですまないって思ってるなら謝ってよ! 今日も明日も明後日もその次の日もその次の次の日も毎日! それができるところに居なきゃ駄目なんだから!」

「はは……そいつぁ手厳しいな」

 彼は気が抜けたように笑って、大泣きする彼女の頭をぽんぽん叩いた。

 遠まわしで素直ではない言葉。

 けれどそれはとても彼女らしくて、そして

 

「ほんと、悪ぃ……スパシーバ」

彼は彼女をそっと抱きしめた。

 そして彼は、確かに此処が己のいるべき場所なのだと実感できる自分を嬉しく、誇らしく思ったのだった。

 

 

 

 


 

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Web拍手のお礼ネタに詰まって発掘された、どうやら「いきなり最終回」的なSS。
いつか何かに使おうと思っていた締めの一幕なのですが、困ったことに未だその前の部分がありません(爆)
「スパシーバ」は割と認知度が高い単語だとは思いますが念のため、ロシア語の「ありがとう」です。サンクスもダンケシェーンも謝謝も多謝もなんとなく語感がしっくり来ずこんなことに……

(20051106)

使用素材配布元:LittleEden