後味の悪い結末に項垂れる暇なく、一行は追いついてきたランスらから城外への脱出を急かされる。
先の戦乱からの損傷をシェルリーゼらの理術によって支えてきた城は、術者の消滅と始源理同士のぶつかり合いに耐えかねて崩壊の危機に晒されていた。
リカルド達は戦争の終結に気付かず刃を向けてくる近衛兵達にも避難を呼びかけながら、城外へと通路を急ぐ。
途中、崩れ始めた壁や天井を支えるために、ランスやフェイスや、その他の仲間達が留まる事を選択した。
自分達の中の誰よりも、リカルドが無事に脱出できなければ意味がないのだと。
多くの仲間達を犠牲にして、城外に脱出したリカルドを待ち受けていたのは、マクロが息を引き取ったという悲しい知らせだった。
マクロから後事を托されていたビリジアンと、マクロの弟子であったメイプルの尽力で、戦後処理は速やかに行われた。
その後の捜索で、城内に残った幾人かは怪我の多少に関わらず発見され、手厚い看護を受けたが、ランスとフェイスだけは遺体すらも見つけ出すことができなかった。
皇帝が亡き今、既に瓦解してしまった帝国をそのままの形で存続させる事は難しかった。
レジスタンス側とシェルリーゼの支配から覚めた帝国文官達の間で、国号と体制を改めて再生させる事が合意された。
人々は当然のようにリカルドが新しい国の国主となることを期待したが、彼自身には素直に首を縦に振ることができなかった。
目の前で失われた数々の命と、生死の理──奪うことしかできないこの力は、次は何を攫ってゆくのだろうか。
躊躇するリカルドのために、ビリジアンは決断までの猶予を提案する。
会議室から逃れたリカルドは、追いかけてきたメイプルから一枚の紙を渡された。
「すべての区切りがついた後に」と師であるマクロから彼女へと託された地図──簡素な図と地名だけが記されたそれに導かれてリカルドが辿り着いた先には、戦乱を免れた小さな山村があった。
村はずれの小さな家からは、とても懐かしい匂いがした。
二度と食べることはできないと思っていた、レックスの得意料理。
ふらふらと小屋へと近付いたリカルドを迎えたのは、彼を庇って落命したはずのレックスその人だった。
重責を負うリカルドの精神的支柱が全て失われる未来を懸念したマクロは、正体の知れないスパイの目を欺くためにレックスの死を偽装し密かにこの地での静養を手配していたのだ。
レックスから種明かしをされたリカルドは、そのマクロが命を落とした事、レックスが「死んで」から今までの出来事を堰を切ったように話し出した。
一夜明けて、改めてレックスからこの先の事を問われたリカルドは、国事に関わらず旅の空に生きる事を選択する。
レックスからの反対はなかった。
そうして、リカルドはレックスを伴って何処かへと旅立って行った。
彼等の暇を告げる手紙が帝都に届けられ、人々は右往左往して彼らを探し回ったが見出す事はついに叶わず。
新しい国の代表は、改めて投票によりビリジアンが務めることになった。
国の代表となったビリジアンは、自分が本来首長となるべき人物ではない事を前置きし、投票により暫定的に選ばれた代表である事を告げる。
そしてこの新しい国は今後も世襲でなく投票による為政者の選定──共和制によって運営される事を公布した。
この公式発表により、ロッソの歴史は幕を下ろす。
新しく定められた国の名前、それは──