Stage1-3

 

 

 ばきっ

 めしゃどごーん

 

 黒煙を上げて九体目の機兵が機能停止すると、警備兵と研究者達は共に浮足だって侵入者を取り囲んだ。

 

 発見から威嚇攻撃まで僅か数秒。

 最初は何故こんなところにと戸惑いながらも、丁度いいデータ収集だと嬉々として侵入者の行動を観察していた不謹慎な研究者達だったが、近付いた戦 闘機兵に逆に取り付いて回路をいじったかと思うとその機兵は暴走したように味方への攻撃を開始、続いて二台三台と命令系統を逸脱して侵入者の身を守る動き を始めると、一気に動揺が広がった。

 戦闘機兵は彼等の自信作。それがあっけなくプロテクトを破られてプログラムを書き換えられたなどとは容易に信じられず、彼等の動揺は瞬く間に生身の人間である警備兵達にも伝染していったのだ。

 色めき立ち平静さを失った兵士達は、同士撃ちの危険も辞さず侵入者への銃撃を開始したが、その尽くを相手の支配下に置かれた戦闘機兵に遮られ、侵入者には傷一つ与えられぬまま。闇雲に撃たれた銃弾や火炎放射は、むしろ味方の機兵の装甲を削った。

 そして今や、稼動する機兵は、自爆回路さえ侵入者に握られてしまった三台だけになっていたのだ。

 

 じりじりと包囲の輪を狭めながらも、彼等は自然と及び腰になる。

 侵入者を守るように、残された機兵は陣型を組む。その巨体に隠された侵入者の表情は、定かではない。乱戦の様相から一転、緊迫した静寂の中には、破壊された機兵のショートする音すら大きく響いた。

 

 

 じゃり

 

 誰かの足の下で粗い砂が声を上げる。

 

 しゃきん

 

 だがしかし、次に動いたのは、侵入者でも警備兵でも研究者でもない別の人物だった。

 

 

 音を立てたのは、機兵の間から侵入者に突きつけられた、一振りの刀。

 装甲の表面を掠りながらも、その切っ先は正しく侵入者の首筋に当てられていた。

「なかなかの見世物だったが、そこまでにしてもらう」

 言葉と同時、背から抜かれたもう一振りの大剣の柄で、彼は右手の機兵を殴り飛ばした。

 めきょり頭部を潰された機兵は、あっけなく廃品の仲間入りを果たす。その間にも揺るぎなく侵入者の頚動脈を押さえる刃が、彼の隙のなさを思い知らせた。

 侵入者は茫然と、しかしどちらかと言えば呆れたように、機兵の残骸を目で追い掛ける。

 

「何者だ、貴様。どうやってここにきた?」

 目を眇め、彼は低い声で問掛けた。

 他の研究所ならいざ知らず、ここラントナハトは、海流によって他の大陸や島々とは隔絶された大地だった。

 現在のところ、財団以外の技術力では、こちらに渡ることなど不可能。少なくとも、発明家組合の連中がそれだけの開発に成功したというデータは今のところ上がってきていない。

 研究を進めるに当たって、総帥がこの土地に本拠を構えたのも、一つには、余計な野次馬に妨害を受けることを防ぐため。

 

 

 にも関わらず、侵入者は現れた。

 単身軽装、それも若い女が何の前ぶれもなしに。

 

 

──シエルは侵入者の存在を認めると、まず開発途上のDMDを一部の担当者諸共研究所に回収させた。

 あれを部外者に見せるのは時期尚早であったし、研究の鍵を握る封魔師は非協力的であったため、この機に乗じて反抗する恐れもあったからだ。

 得体は知れないと言えども女一人。戻る頃には始末も着き、尋問又は口封じのため拘束または、殺害されているだろうと考えていたのだが。

 

 現実はこの様だ。

 シエルの到着が、後僅かでも遅れていたら、侵入者は悠々と包囲を破り、どこかへと消え去っていたことだろう。

 警備兵達のふがいなさに失望し、彼の詰問する声が硬質なものとなるのも、いた仕方ないこと。

 

 しかし、

「名前は詩子果城」

ふっと苦笑するように息を吐いた後、

「身分はまぁ、見習い研究者ってところ。ここにいる事情は、有態に言えば、単なる事故ね。本当はアルテナ近郊に出ようとしていたんだけど」

首筋に当てられた切っ先を気にしてだろう、不自然に動きを止めながらも、詩子と名乗った侵入者は悠然とした口調でそう語った。

 

「この際だから、雇ってくれない?」

 

 

 


back home next

使用素材配布元:Cha Tee Tea