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そろそろと手探りで進むうちに、詩子は自分の考え違いに気がついた。
少なくとも、この場所は封印の洞窟ではない。幾ら探っても、そこには、何のトラップも存在しない、硬い岩盤が広がっているだけ──否、そもそも洞窟ですらないのだろう。幾ら広い洞窟といえども、此処まで壁に行き当たらないということはないのだろうから。
それにしては、篭ったような饐えた臭いが気に懸かる。
こんな場所がゲームの中に登場しただろうかと思案しても、頼みのツールがのっけから不調を訴えては比較材料が見つからない。
「っていうか思考が鈍るわぁああっと?!」
行儀悪く地面に胡坐をかいてぼやいていた時──!
ずしんっ
大地を揺るがす激しい振動が、彼女の身体を浮きあがらせた。
「な、何?」
詩子はあんぐりと口をあける。
どごぉん
ごごぉん
改めて耳を澄ませば、微かにそんな物音が鼓膜を震わせる。
繰り返し、繰り返し。先ほどのような極端な揺れはないものの、じっとしていると、この鳴動が断続的なものであることに気付かされる。恐らくは、彼女が移動するその最中にも振動はあったのだろう。
「荒野……悪臭、振動、年中薄暗い…………?」
ざらり。
手の下の粗い砂を掴み上げる。
薄闇に慣れてきた瞳で掌に乗せたそれを見つめれば、鉄錆など腐食した金属を多く含んでいるのが判る。詩子は自分の考えを更に確証に近づけるために、ウェストポーチから取り出した工具の持ち手で硬い地面をごりごりと削り出していった。
「……鉄板」
ややあってまた詩子は呟く。
硬い地面の下には、朽ちきれなかった平たい(或いは曲線を描く)装甲のような物が、幾つも埋もれていた。
ごおぉん
また揺れた大地が、脆い断片を崩れさせる。この辺りの荒れ土はこうやって堆積していったのに違いなさそうだ。
詩子は暫しの間、酸化し切った堆積物を睨みつけた。
音は一向に止まない。そしてその発生源は、常に一方からだとわかった。
だから彼女は再び腰を上げ、聴覚を頼りに足を進める。今度は足元には気を配らない。その代わり、周囲の気配には、これまでの倍以上の気を遣う。
何故ならば。
──ピッ
漸く岩陰が見当たるようになったあたりで、詩子はツールの電源を入れなおした。
先程は真っ赤なエラーメッセージを明滅させていた画面に、歪な地形が浮かび上がり、いくつもの光点が示される。
エネルギー反応、それから、登録データとの、合致。
「……そう、くるのか」
二度目の予想が確定となったのに、詩子の肩はがっくりと下がった。
振動音は最早耳を欹てるまでもなく明らかであり、掘り起こさなくとも、機械の外観を残した廃棄物が地面から突き出ているのが見て取れる。
空気中の腐臭と粉塵は視界に訴えかけるほど。空は相変わらず薄暗く、日が射すということを知らぬ有様であり。
今更ながら、相応しい名を与えられた土地だと思った。
Land-Nacht
夜明けを知らぬその土地は、開かれていながらある意味封印の洞窟以上に質の悪い場所だった。
「仕方ない、やるだけやってみるしか」
己を鼓舞するように呟いて、詩子は手持ちの工具を改め始めた。
使用素材配布元:Cha Tee Tea