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 見慣れた街並みが、徐々に、徐々に近付いてくる。ようやく復旧した副嶋-仙蓼間の列車に乗り換えてから、もう二時間が過ぎていた。

 

 

「戻っていいよ」

 

 そう言われたのが、つい三日前。

 焦って聞き返そうとしたら、リーハ・シーマ・ダナスは微笑んで言った。

「ここで私が教えられることは、もうない。とりあえずは、合格、だよ」

 赤みがかった金髪を持つトラジェリア人は、次元転移理論の講師だった。

 

 どことなくアキム・アマヤ・タクを思わせる風貌に、出会って少しした頃に話してみれば、彼とは比較的血筋の近い一族なのだという。

 初めて千波の養成所に来て、彼らトラジェリアン達の姿を目撃したときには、正直言ってかなりびっくりしたものだが、その中でも、とりわけこの講師については、世界なんて狭いもんだなという気を、改めて起こされたのだった。

 なにしろあのアキムとは、ただ単に血筋が近いというばかりではなく、古くからのつきあい──親友のような間柄なのだというのだから。

 とは言うものの、そこにいる間に私がアキムと出会うことは一度もなかった。

 

 リーハ曰く、彼はこの二次元間の交流には深い関わりを持たない……いや、持てないのだそうだ。

 かつてトラジェリア側の中心人物といざこざを起こしたのが、その原因であるらしい。あの時、笹本を追いかけて行った先で知己を得たトラジェリア人にそんな裏が在ったとは予想外で、初めて聞いたときには、リーハが冗談を言っているとさえ思ったのだけれど。

 言うなれば私は、現在では唯一の、彼との面識を持つエスジェリア人というわけだ。

 

 リーハは私が教務室を後にする間際になって、こっそりと付け加えた。

「アキムのことだから、関わり合いになった相手を放っておくなんてできなくて、何かあったら僕の処に怒鳴り込んでくるかもしれない。くれぐれも、気を付けておくれよ」

 

 アキムといいリーハといい……別れ際に意味深な言葉を残してくれるところは流石親友。それとも、それもトラジェリア人の独特な礼儀の一つなのか。

 結局その後、滞在残りの三日間にはリーハに会うことはなくて、言葉の意図を問いただすことはできなかった。

 

 代わりにそれを養成所で知り合った炎使いの匡に話したら、

「そのアキムって、英治並みの心配性なんじゃねぇ?」

冗談めかして、彼はそんな風に応じた。

 「英治」というのは匡のパートナーの雷撃使い(私は「玖賀さん」と呼んでいた)のことだ。

 玖賀さんはあさっての方を向いて、匡の言葉に気付かないふりをしていた。勿論、気分を害したとかいう訳じゃない。二人はとても気心の知れた親友だそうで、いつもこんな感じに微笑ましいじゃれあいをしているんだ。

 けれど、私に言わせれば、匡と玖賀さんだって、どっちもどっちの心配性だと思う。彼女が待ち合わせに一分遅刻しただけで酷く動揺する様子は、傍から見ている分にはなかなかに見もので。

 元々理事長→千波支部長の伝で私の面倒を見るようにって言われていたらしい。彼はこれでも支部長子息で、支部長的に歳も近くて頼みやすいっていうだけのことで抜擢されたようだ。

  そんな事情なので、最初はかなりめんどくさく思っていたみたいだけれど、ギクシャクしていたのは始めの三十分。何のかんの言って世話好きで、軽口を叩き合 う仲となった彼らを筆頭に、養成所や千波支部の面々とも随分打ち解けられたと思う。そういうところまでを見越して草壁支部長が匡を選んだのだとすれば、千 波支部というところは上司に恵まれた仕事もしやすいところなんだろう。少なくとも、うちの支部長はそこまで考えられる状況には居ない。(だってあちこちか らの圧力で胃薬が手放せないって聞いた)

 こうしてせっかく親しくなれた頃に、また向こうに帰らなければならないというのは、あまりにもお約束で溜息も出なかったが。

 

 

 

 今朝発つとき、匡は、自分と玖賀さんと、結貴さん、美姫ちゃんからだといって、新幹線ホームにダッシュでKIOSKの袋を持ってきてくれた。ちなみに、結貴さん、美姫ちゃんは、匡と玖賀さんの、プライドの次(?)に大事な彼女なのである。

 一にプライド、二に彼女……考えてみれば、かなり嫌な人達? つーか自分の命は何番目なのか(苦笑)

  開けてみると、その中身はお約束の銘菓ひよことはとサブレ。こんな可愛らしいものを選んだのが、あの、学ランと見まごうばかりの黒いカンフー着をオール シーズン愛用してるバンダナ君(そんな調子だから普段の振る舞いでは絶対に支部長の子息のようには見えないんだ。これは玖賀さん、結貴さんとの共通見解) でないのは明白……だと思いたい。

 と、とにかく、そんなこんなで、私は実に三カ月ぶりに仙蓼市へと戻ってきたのだった。

 

 

 


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