リカルドが新生レジスタンスをまとめ育て上げる一方、エディータの補佐役であったフェイスは、国境周辺を探索していた。
古城を本拠と定めたリカルド達に合流した彼は、リカルドが加わったタイミングで相次いでリーダーが命を落としたことに疑念を抱く。
それを否定したのは、キヌル。
彼がレジスタンスに協力している事をリカルドが知るより先に、キヌルを拘束した手際は、明らかに他の内通者の存在を示唆している。
むしろ、時期を計って事を起こしたのは、リカルドとレジスタンスを分断し、個別に潰すことが目的なのではないか、と。
リカルドへの疑いを拭い去れないながら、フェイスは現在のレジスタンスが彼なしではまとまり得ない現状に苦い理解を示す。
「フォーライツ家の跡継ぎ」と「エクセル家の名軍師」が共に手を携えレジスタンスを指揮するということは、彼らの知名度しか理解し得ない一般の大衆にも、権威と血統に弱い帝国中枢にも、またとないアピールだった。
そしてそれだけでは済まされぬ、リカルドの現した確かな判断力と行動力を認めぬわけにもいかなかった。
地方の主だった領主の協力を取り付けたレジスタンスは、次に始源理の一つ、感性の理を持つガルウィン・メーア率いる天獣騎士団との交渉を画策する。
これまで辺境で隠棲生活を送っていたマクロだが、最近天獣騎士団と王城の関係が疎遠となっていることは把握していた。
リカルドは騎士団に探りを入れるため、少人数で騎士団領へと赴くが、殻に篭った岸団員達は愚か、壮大な力を感じさせると言われる天獣の姿を僅かにも目にすることはできなかった。
これには、ある事情があった。
その頃天獣騎士団では、次々と天獣に異変が生じていたのだ。
突然凶暴に暴れだし、周囲の物を者を闇雲に破壊しだしたかと思えば、急に苦しみ悶え──酷い時にはそのまま息絶える。
一口に天獣といっても、その種族は一つではないのに、どの天獣も次々と暴れ狂っていった。
ガルウィンは己の宿す感性の理を用い、発症した全ての天獣たちを眠りに就かせることで状況の安定を図った。
騎士団員達は動けない天獣の世話と、新たな異変への警戒に追われ、来客どころではなかったのだ。
理の力をしても解決に至らないこの現状を打開するため、騎士団は本拠を離れられない騎士団長に代わり、幾度となく副団長が王城へと赴いて術氏及び薬師の派遣を求めてきた。
かつてリカルドが見習い天獣騎士、アルフレッドと出会った時にも、彼らはその陳情のために王城を訪れていたのだった。
けれど、その意義のある回答を得られる時が来ぬ間に、副団長のグリフォンもまた発症の兆しを見せ眠りに就かされる。
今や、活動を許される状態の天獣はアルフレッドの相棒ただ一頭となった。
リカルド達が天獣騎士団を訪れたその日も、アルフレッドの操るグリフォンに相乗りをして、副団長は幾度目とも知れぬ陳情へと赴いていた。
議場への同席が許されないアルフレッドは、控えて待つ中庭で改めてレジスタンスの噂を聞いた。
そして、そのリーダーが紛れもなく自分の知る少年であることに困惑を覚える。
ともにこの国を守る正騎士と叙勲される日を夢見て誓い合った日から、然程の月日も経過していない──考えをまとめるために庭を一周して相棒の元へ戻ると、悪態をつきながら相棒の身体に何かを仕掛ける美女の姿がアルフレッドの目に入った。
寵妃シェルリーゼ。
市井にも出回る絵姿から、アルフレッドも彼女のことはすぐに分かった。
何がなされたのかを知らぬまま、今回も色よい返事が貰えぬままに、二人は失意も隠せずに騎士団領へと引き返す。
その途中だった。
突如凶暴化したグリフォンが2人を空中で振り落とした!
絶体絶命の彼らを助けたのは、騎士団領から引き返す途中のリカルド達──彼に随行していたルードの理術だった。
無秩序な動きで暴れまわり近隣の小村を襲ったグリフォンをリカルドの持つ理でどうにか抑えた彼等は、村の老人トクサにこれがただの病ではないことを訃げられる。
気高き天獣、グリフォンを内面から蝕ませる狂気の種。
アルフレッドは自分の見た王妃の行動こそが、それを呼び込む所作であったと気付く。
つまり──天獣の異変はシェルリーゼの企みであった。
幾ら陳情しても治癒の手が差し延べられることが無かったのも道理。
手酷い裏切りの露見に、副団長が握りしめた手の平からは、ぼたりぼたりと血がしたたり落ちるほどだった。