刻一刻と天獣達の命を蝕んでいく病は、速やかな治療を要していた。
アルフレッドは相棒と共に、トクサを騎士団領に送り届けた。
薬草を求めて、リカルド達とロッソを駆け巡った。
しかし、彼の相棒のグリフォンも、病が完治したわけではなかった。
連日に及ぶ強行軍に疲れ、耐性を失ったグリフォン。
残りの天獣に再び狂気を植えつけようと、シュタイフがマイクを伴って姿を現す。
虚ろな目をしているマイクは、明らかに正気ではなかった。
ふらふらとシュタイフの後ろに佇み、グリフォンに手を伸ばすシュタイフの姿をぼんやり見ている。
谷の入り口に待機するグリフォンが暴れだしたら、全員生き埋めの危機だ。
そうでなくとも、狂乱した天獣とシュタイフを同時に相手取るのは──皆の全身に緊張が走る。
だが、それは陽動だった。
リカルドが理を用い呪いを弾き返そうとするのを狙って、マイクが彼に組みついてきた。
それと同時、シュタイフが放ったのは狂気の呪いではなく攻撃の一手。
気力を振り絞ったグリフォンは、アルフレッドと彼の仲間達を庇って絶命してしまった。
邪魔者を遠ざけた後、リカルドに迫るシュタイフ。
マイクがしがみついた腕ごとクリスタルの宿る手を斬り落とそうと、黒曜の剣を振り上げる。
力尽きたグリフォンの亡骸が、物理的に他の仲間達とリカルドとの間を遮っている。
悲痛な声がリカルドの名を叫んだ。
その時、操られていた筈のマイクが、身を翻して刃の前に躍り出た。
リカルドの腕を切断するはずだった一撃は、マイクの背中を深々と切り裂いた。
親友の危機に、マイクは束の間ながら精神の拘束を振りほどいたのだ。
正気に戻ったとはいえ、マイクが負わされたのは致命傷だった。
死してなおミナルリックらに利用される事を恐れたマイクは、長らくともに在った生死の理に我が身を破壊させる。
そしてその身を代償に、シュタイフに反撃の理術を打ち放つ──シュタイフは、舌打ちをして撤退した。
親友を失ったリカルドとアルフレッドは、悲嘆に暮れて本拠地に帰る。
異変を察知したルードが理術で様子を見に来なければ、彼らは一歩も動けなかったかもしれない。
リカルドの受難は未だ続いた。
天獣騎士団を仲間に引き入れ、シュタイフを一度は退けたレジスタンスの次なる相手は、フォーライツ将軍──父親の率いる第五軍団だった。
塞ぎ勝ちになった彼を労るレックスを、夜半、何者かが毒殺しようと忍び込む。
レックスは一命を取り留めたものの、リカルドは一番の従者を欠いた状態で、スカッドと対決することになった。
彼に強い恩義を持つカーラは、スカッドに刃を向けることができない。
それを知るリカルドは、彼女も戦列から外し、最初の対決を迎える。
消沈する彼等が猛将に太刀打ち出来る筈もなく、リカルド達は呆気なく敗走する。
その夜、カーラは人知れずスカッドのもとを訪れた。
密偵や刺客としてではなく、父子の心を案じるあまりの行動だった。
彼女を見つけたスカッドは、これから先もリカルドを支えるようにと願いを託す。
自陣に戻ると、カーラは塞ぎ込むリカルドを叱咤して、覚悟を決めねばこの場で自分がリカルドを殺すと宣告する。
気持ちが定まらねば苦しいだけ──不甲斐なく惑う実の息子を、将軍自ら手にかけさせるようなことだけはしたくなかったのだ。
静かに激情を滾らせる彼女の言葉で目を醒ましたリカルドは、改めて猛将攻略の作戦を練り始める。
要となるは天獣騎士と理術使い。
物理的攻防には絶大な力を誇る第五軍団に、強いて欠けている所があるとすれば理術師の絶対数だ。
当然、スカッドらはリカルド達が天獣騎士団を味方につけたことを把握しているし、リカルドやルードなど、一部突出した理術師の存在も心得ていることだろう。
しかし天獣は傷付き、理術師は極一部のみとなれば、第五軍団ほどの部隊に対して勝っているのは士気の高さ程度。
その士気ですら、先の一戦では限りなく低く、厭々ながら健闘したルードの押さえが無ければ壊滅的な打撃を受けたに違いなかった。
マクロは天獣騎士団の再編に力を注ぐ一方、水面下では理術師の獲得に人を動かした。
そんな中リカルドは不思議な理術師・ヘレナの協力を得ることに成功する。
理術師の獲得により複数の奇襲作戦を平行展開可能となったレジスタンスは、万全の体制で再戦に臨み勝利を収めた。
それは同時に、リカルドが尊敬し家人たちが慕う父との永遠の別れを意味していた。
追い討ちをかけるように、帝都攻略を待たずにレックスもまた命を落とした。