一方、走り出した二人は、通りすがりの敵を杖で薙ぎ払いながら、前方へ前方へと進んでいった。

 とは言うものの、隊列を乱すことを嫌ってか、朱宝が進む道筋は義勇軍璃有隊の左外郭をなぞるようにやや湾曲していた。このため、偶々西門付近で剣を振るっていた洪軍の麓絽がその動きに目を留め、義勇軍の窮状を悟って苦々しく顔を歪めた。

「あんな子供にまで無茶をさせるとは!」

 そんな子供がどれほどの活躍をしたのかを彼が知るのは、この戦いが終結した後である。

 朱宝は、ついて来られた以上、ピカタのペースを計りながら先へと進んでいた。

 籠虞に悪し様に言われ、(本人にではないが)あれだけ悪態を吐いて返した意地が、彼女にはある。

 そしてピカタは、決して、その働きを危ぶむほどの頼りない兵士ではなかった。

  身長と同じほどの杖を軽々と操り、敵を薙ぎ倒し、薙ぎ払い、突いて遠退け、飛来する矢を、刃を、うまくいなす。まだまだ成長期ゆえの、力不足は否めない。 彼が一旦退けた敵は回復も早く、すぐにまた武器を構える。が、それよりも彼等が走り抜けるほうが先んじている。こちらを標的と定めた敵には、付近を進む味 方が纏まって当たっていくから、二人の動きはむしろ、よい攪乱にもなったようだった。

 朱宝 の杖はピカタより大分小振りで、結果的に相手への攻撃力も低下するため、彼女は一点集中、打たれれば衝撃の大きい急所への鋭い一撃を心がけていた。その技 の正鵠さは、隣を走るピカタを驚かせるもの。彼女が手を振るう度に、蹲り崩れ落ちる人の数は着実に増えていく。蕃佑や楓軌が胸を張って兄弟の一人だと言い 切るだけの実力が、彼女には備わっていた。

「楓軌哥!」

「うぉっ……朱宝か」

 味方の陣を走りきって早々、朱宝は飛礫を投げて楓軌を囲む敵兵を牽制する。

 楓軌は突然の呼び声に驚いたようだが、大きく鉾を振り回し、更に余裕を持ってから彼女を振り返る。孤軍奮闘をしていた割に、その表情は極明るい。

「ピカッちも居るよ。あのタコの居場所わかったからさぁ、誘導に来たんだ」

「お前……本当口が達者だな」

 どかばきぶんっという破壊音を辺りに撒き散らせながら、朱宝と楓軌は情報交換をする。流石にピカタにはそれに加わる余裕もなく、肩で息をしながら杖を振り回し続けたが、耳だけは懸命に働かせた。

「あの薯は北門辺りに居るけどっ」

「おう」

「左右にまた隠れてる奴らが居るッ幾らなんでもあの人数じゃ攻略に時間かかるだろうし、合流のチャンスじゃないッ?」

 ガシャンッ

 敵兵の手から弾かれた槍が、振り上げられた剣にぶつかってあらぬ方向へ飛んでいった。

 その軌跡を追うものは居らず、更に踏み込んだ一撃が湾曲した剣を絡め取り、無手となった敵が掴みかかってくるのを、鉾の柄が強かに打ちつけて撃退する。

「ちゃんす? ってのはよくわかんねーが、今の内に合流しちまえって事か?」

 両手に武器を持った楓軌が首をかしげた。

「楓軌哥のわりに判ってるんじゃないッチャンスってのは好機ってコト!」

 あれ、と今度はピカタが首をかしげた。

 けれどそれは次の一撃を受け流す所作に紛れて、二人に気付かれることはなかった。

 

 

 

 

 

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 此処はちょっと短め。
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