水晶一覧-Crystallist-

 

 

 

 

 各々の陣営に一度は身を置いただけに、ピカタにはこの泥沼の展開は予測可能だった。それを回避するべく動いていたはずが洪家に、飛ばされてしまったことにピカタはかなりの焦燥を感じていた。

 充分に有能たることを璃有との行動の中で明かしてしまっていたピカタは、洪城の中に在っても警戒されており、いつか嵩萄の許を逃れたときよりも脱出は困難と思われた。

 一歩間違えれば共倒れて三国揃って滅亡という危機感に蒼ざめるピカタの前に、不思議な女性が現れて告げる。

『力はその掌中に、導き出す答えはその心中に、それらを読み解くべき理はその額中にあるのでしょう』と。

 彼女は自身で国を立て直したいと真に願うのであれば、無口な少女の持つ水晶盤・Crystallistを正しなさいと助言して姿を消す。

 ピカタはその言葉で初めて意図的に創始の理の力を引き出し、これによって別室に閉じ込められたティータらの所に駆けつける。彼に請われて水晶盤を開いたティータ・Aは、定まるべきものが定まらない、そのが為に世界はより混乱に追いやられるのだと暗示めいたことを告げる。

 理の力によって自由を得たピカタは、留守居として城に残った洪樂令を問い詰めて洪励の所在を聞く。続けて、彼はティータ・Tに、有兄弟をつれて今度こそ間違わずに璃有の元へ転移するように告げ、自らはティータ・Aを伴って洪励の後を追った。

 反論を許さぬピカタの言葉に、有兄弟は随行を諦めて帰還する。

 すると、水晶盤の名前が、二つ、三つ定まった。

 次に、ティータ・Aの力により本陣を構える洪励の許へ飛び込んだピカタは、彼の剣を奪い、彼の真意をただす───世の和平か、それとも己の天下か。

 民の平穏こそが望みであると答える洪励は、逆に何故そこまでして璃有に組するのかとピカタに訊ねる。

『宝剣を捧げ、真心をもって彼を迎え入れようとした、その私心なき姿勢に、友として隣に在りたいと願った』

 ピカタの正直な答えを受けた洪励は、ならば友として領土を広げ戦火を拡大しようとする彼の野心を諌めるべきだと応じる。ピカタは苦笑して、牙を向けられなければこれ以上は襲い掛からない、璃有も洪励もその願うところに変わりは無いと返すと剣を収める。

 奪った剣を鞘ごと差し出すと、ピカタはそのままきびすを返した。

 無防備な背中を見せられ、洪励は動揺する。

 ピカタはそのままティータと二人、天幕を歩いて出て行くが、洪励は斬れとも捕えよとも命ずることはできなかった。

 そして、ピカタは次の目的地へと転移した。

 彼の登場に、恐らく最も動揺したのはかの陣営だった。

 突如出現したピカタの姿に、嵩萄は反射的に剣を払う。

 それを棍で薙いで、ピカタは平然と嵩萄の前に立った。

 何を今更と色めきたつ諸侯の中に在って、ピカタはそれこそ今更に、嵩萄の政策に対する評価を語る。その上において、告げた。

 いずれが臣で、いずれが王か──臣として嵩萄が、王としての稟陽片に、膝を屈する気があるのか否か。

 自分はまずその問いかけを、あの日あの時あの場所にて行うべきだったのだと。

 嵩萄は含み笑うのみで答えを返さなかった。

 それでもピカタは、ティータと共に璃有の許へと帰還した。

  帰還したピカタを待っていたのは、璃有と陽片皇子との改めての会談を求める洪励よりの書状だった。その意気を示すように、それを携えてきたのは洪家次男・ 洪頌。頌は幽閉していたはずのピカタが城内から現れたことに首を傾げるが、だからこそ洪励が会談を求める気にもなったのだろうと彼なりに納得した。

 そして応じられたこの会談により、璃有と洪家との間の不可侵条約が結ばれる。

 交わす言葉が、水晶盤の文字を次々に定めていく。しかしそれは、まだ完全ではなかった。

 

 

 

 

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