「あんたらのボスってどんな人なんだ?」

 笑いの衝動を堪えて、ガーラントは訊ねた。

 

 すると二人は口を揃えて、

「「ボス?」」

と聞き返してくる。

 四つの瞳に浮かぶのは、困惑。仲の良い仕草に、ガーラントはまた笑みを噛み殺す。

 

「足止めされることが判っていて俺を助けてくれたんだろう? それを許したその人の判断がなけりゃ俺は今頃死んでたからな。できればそ の人にも礼を言いたい」

 他意はない、とガーラントが説明するうちに、何故か彼女はニンマリとし、マイクは先程とは違う感じに顔を赤くして目を泳がせた。

 

「……だってよ? マイク」

「う、うるせえっ! だっいたいボスってんなら俺よりお前の方だろ、静花!」

「? どういうことだ?」

 そのまままた言い合いを始めそうになる二人に、ガーラントは急いで待ったをかける。

 どうしてそこで二人の争いになるのか、全く訳がわからない。

 

「そのままだよ。言っただろ、ここに用があるのはこいつだって。行動方針を決めるのがリーダー──ボスの役割だってんなら、それはこい つだってことだよ」

「またもっともらしく小理屈を……この人が今言ってるのは、"ここに留まっても何のメリットもないのに、留まる事を容認してくれた誰か "へのお礼なんだから、マイクが受け取っておけばいいじゃない」

「小理屈とか言うな!」

 

「ちょっと待ってくれ!」

 ガーラントは慌てて口を挟んだ。

 

「どういう、ことだ? つまりあんた達……」

「あ? 俺達にボスなんていてたまるかよ」

 彼を横目に見たマイクは、鼻先で笑ってのける。

 マイクほど挑戦的ではないが、彼女も同感と言わんばかりに肩を竦める。

「今の私達は旅をしてるだけなのよ。強いてボスと呼ぶ人なら、役目を終えて、ずっと前に別れたきり」

 

「理術師団の人間じゃないのか?」

意外に思って訊ねると、二人は顔を見合わせた。

 

「堅苦しいのは苦手でね」

「いや、だからといって、宝飾師の下に着いたにしても、あれだけのダートウルフを瞬殺する理術を放置する組織もないだろう」

「それはオーサの話でしょう?」

「だがキルサイドは」

 

「俺もこいつもキルサイドの人間じゃないぞ」

 

「え?」

ガーラントは眉を寄せた。

 

「私達はこの大陸の生まれじゃないの。それに、キルサイドの全部がオーサの言いなりとは思わないで欲しいんです」

素っ気なく言うマイクの言葉を補って、彼女は言った。

 下がった眉尻からは、ガーラントの下した世間一般同様の評価──この国がオーサの属国という考えを憂いている事が伺える。

けれど彼女はすぐに悲しげな表情を消し去って、むしろ怒ったように言った。

 

「ていうか、こんな話し込んでたらお湯が水になるじゃない! 話は後々!

 負傷者は負傷者らしくおとなしくしててください!」

「う、わかった、すまない」

 

 

 何で自分が年下の娘にこれほど弱腰で謝っているのか──ガーラントがはたと気付いたときには、彼女は部屋を出ていった後。

マイクはまた同情するように、横目に生温い目をくれた。

 

 

 

 

 

 

 ばっく ほーむ ねくすと

 

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