「ちょっといいかな?」
マイクにガーラントの意図した裏の意味が伝わったか確認する事はできなかった。
丁度布包みを抱えた静花がドアから首を覗かせた為だ。
「何話してたの?」
「こいつの好き嫌い訊いとけって言ったのは静花だろ」
「あ、そっか」
静花は頷いて、目線で答えを促す。
「別にないってさ。大体好き嫌いして傭兵なんてやってられないだろ、聞くまでもねーじゃん」
「たいした偏見ねぇ。誰にだって多少好き嫌いはあるでしょ。エルヴァンなんてナス嫌いでもちゃんと傭兵してたし、そ の手の理屈で言えば、マイクに好き嫌いがあるのもおかしくない?」
「え?」
「俺は傭兵じゃないから良いの! 大体お前こいつに甘くないか?」
飛び出てきた思いがけない名前に、ガーラントは声を上げたが、すぐにマイクが言い返したために聞き返すタイミングを失った。
「怪我人に優しくするのは人としてとーぜん……ていうかー、うん、何となく、懐かしいんだよね」
「懐かしい?」
「マイクもそんな感じしない?」
「そうか? 俺はむしろ見てるとムカつくくらいだけど」
さっくりとマイクは答え、ガーラントは温い笑みを浮かべた。
多少打ち解けた気になっていたのは、どうやらガーラントの方だけだったらしい。それでも、陰で言われるよりは目の前で言われる方がマ シというものだ。
静花は苦笑でそんなマイクをたしなめる。
「別に顔がムカつくだけだし他はなんもねーよ、俺は」
「あ……そうか。多分、似てるんだ」
「ガーラントが? あいつに?」
マイクは疑り深い顔で聞き返した。
「そうじゃなくて……て、ガーラントさんていうんだ? すごい偶然。ディアナのトコの子と同じ名前だよ」
静花は否定する途中で目を輝かせた。
両手を合わせて楽しそうに笑う彼女を、ガーラントは食い入るように見つめる。
「ディアナのトコの子って……子供って年齢じゃねえだろ、絶対」
げんなりとするマイク。ガーラントは奇妙な予感に捕らわれながら、恐る恐る二人の会話に口を挟んだ。
「なあ……あんた、蒼剣のエルヴァンと何か関係が……?」
「え? ……もしかして、ガーラントって、サキカっていう妹がいたり?」
静花はガーラントの問いに問いで返した。
ガーラントは探るように静花を見る。静花も伺うようにガーラントの目を見返したが、やがて視線を泳がせて乾いた笑い声を上げた。
「あはははは……ごめん。貴方がガーラント・マージョリーなら、こんなトコまで飛ばされたの、多分私のせいだ」
「は?」
「どういうことだ?!」
ガーラントとマイクは同時に彼女に訊き返した。
静花は目を泳がせたまま、意味なく指を動かしながらで答えを返す。
「お守り……持ってたでしょ。ディアナの子が生まれた時、特別な護符を作ったんだ。多分それが理術の爆発に反応し て、こんな場所まで貴方を飛ばしたんだと思う」
「何でここなんだ?」
訊いたのはマイクだった。
ガーラントには未だ混乱がある。
「だってここはディアナの故郷だし?」
「……お前が昔拾って助けた子供ってのがディアナ・マージョリーだったって訳か……」
どう考えてもおかしい話なのに、マイクはそれで納得してしまったようだ。
残されたガーラントは、訳がわからずに二人の顔を見比べる。
「あんた達は……」
「深く考えすぎると早く禿げるぜ。あんたがディアナ・マージョリーの息子だってんなら、こいつにとっちゃ、まぁ、孫みたいなもんだ。甘 くなんのも仕方なしってとこだな」
「孫言うな!」
静花は持っていた包みで、マイクの頭を殴りつけた。
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