I never say "good-bye"2
どこに連れて行かれるのかと少しだけ心配(期待?)していた一同だったが、彼女が彼らを引っ張っていった先は、児童公園・ペットショップ・ショッ ピングモール……それから、また、広い公園。特に何をするわけでもなく、園花は彼らといっしょになって笑ったり、騒いだりできればそれでいい、という様子 だった。
テレビで見る、自分達より少しだけ大人びた彼女の姿はそこにはなく、はじめは緊張気味だった涼二達も、すぐに友達に接するように園花にうち解けていた。
「へぇ。じゃあ、淳とは試合会場で知り合ったんだ?」
「そうだよ。ウチの学校と神代が対戦したとき。雄介がちっとも連絡くれないから、どんな先輩に囲まれてるのか気になっていたんだけどね」
「いっ! 一々兄貴に報告する事じゃねぇだろ!」
余計な言葉まで付け加える那須に、雄介は慌てて二人の会話に割って入る。
すると。
「僕だけじゃなくて、百合子姉さんも母さんも心配してたのにな……」
「男の癖に可愛らしく項垂れてんじゃねぇ!」
「照れてる雄介の方が僕より可愛いじゃないか」
こればかりは疾うに兄を越した長身で雄介が怒鳴りつけると、那須は表情一変。にっこり笑って彼に応じる。
兄、強し。
「なっ! 何いいやがる!」
「お、雄介顔が赤いぞ〜」
「柳原さん!」
脇で見ていた柳原の茶々まで入って、すっかり真っ赤になってしまった雄介を、おかげですっかり会話の脇に退けられてしまった園花は楽しそうに見守っている。
ちょっとした間に園花の腕を抜けた如月は、以後、何をするにも彼女から距離を置いてその動向を眺めていた。
「中に入らなくていいんだ?」
いつの間にか雄介で遊ぶ輪から抜け出てきた那須が、如月の隣に並ぶ。
「別に……」
「ふぅん」
那須は如月の顔を覗き込み、それから、彼の視線の先を辿った。
最初は、彼女と那須達をあまり近づけたくないのかと思った。
次に、親密そうに見えたのは何かのポーズで、本当は如月は彼女を嫌っているのかと推理した。
けれど。
雄介や涼二達とじゃれ合う園花を見つめる如月の表情は穏やかで、その眼差しは嬉しそうで、優しげだった。
楽しそうに笑う園花の姿に、如月はほっと安心しているようにも見えた。
「きさ「なーすぅぅ!」」
二人の関係が一体何なのか、那須が問いかけようとした言葉は、涼二の呼び声に遮られた。
溜息を吐いて振り返れば、どこから調達してきたのか、涼二はラケットをぶんぶん振り回している。
「どうしたの、涼二。そんなにラケット振り回したら危ないよ」
「ダブルスしよ、ダブルス」
「何いきなり」
突飛な提案に那須が戸惑っていると、涼二は問答無用でラケットを押しつけてくる。
「園花ちゃんテニス好きだけど忙しくってずっと試合見に行けないんだって」
仕方なくグリップを握る那須に顔を近づけて、「だからさ」と涼二は笑った。
「だから、ここでやって見せようって?」
「そ」
那須はまた呆れ顔を見せた。
まっすぐというか単純というか短絡的というか。
気分屋の割に、涼二はいつも「思いついたら即実行」で、周囲を振り回している。きっと今回も、「テニス好き」と「試合は行けない」という言葉だけを拾って、「今やろう」まで勝手に発展させてしまったのだろう。
ちらっと園花を見れば、申し訳なさそうにしながら、涼二の突然の申し出を嫌がっているようにも見えない。
那須は仕方なく頷いた。
「じゃあ、ワンゲームだけ」
涼二はぱっと目を輝かせた。
「やた☆ じゃあ那須はあっち」
「涼二と組むんじゃないの?」
「那須と組んだら楽だけどさ、雄介がムキになって遊びじゃなくなっちゃうだろ?」
あっちあっち、と示されたコートでラケットを握っているのは、確かに、柳原と雄介。向こうでも、ペア分けについてもめているのだろう。柳原が必死で雄介を説得しているようだ。
「でもそしたら如月は……」
「園花ちゃんあいつに会いに来たッぽいのに俺達ばっか、周り囲んじゃってたろ?」
「涼二……」
那須は驚いた。
涼二は涼二で、きちんと彼女と如月のことを気に掛けていたのだ。
てっきり、憧れの「SONOKA」に良いところを見せたいだけなのだと、涼二の提案を誤解していた那須は、ほんの少し己を恥じ、ほんの少し、涼二を見直した。
「それなら涼二、園花ちゃんが本当は何をしたいのか、きちんと聞いてみよう?」
向こうの話し合いもなかなか終わらないみたいだしね、と、苦笑して告げると、
「う……そだね。俺、もいちど聞いてくる!」
「待ってよ、僕も一緒に行く。じゃないと涼二また早とちりしそうだし」
「ひどいな〜!」
二人は連れだって、園花と如月のところへ向かった。
(02-12-07)→(06-10-26)修正