I never say "good-bye"3

 

 

 

「……」

「…………」

「…………」

「……」

 

 涼二が二人きりになる状況を作ったのに、園花も如月も、距離を置いたまま、何の会話も交わしていなかった。

 さっきまでじゃれていたのとは全く違う、テンションの低さ。

 目を合わせてもいない、二人。

 

 

「あぁ、組み合わせ、決まったの?」

 如月は、那須達に気付くと薄く笑って首を傾げた。

 園花もまた、ゲームを始める様子でもない二人に、不思議そうな顔を向ける。

「いや。そうじゃなくて……」

「園花ちゃんは、何かやりたいことがあったんじゃないかなって、それが気になって」

「あたしが……やりたいこと?」

 

「そう。テニスを見たいって言う気持ちも確かにあるんだろうけど……忙しいんでしょ? それでもわざわざこっちにくるほど、本当にやりたいことが、何かあったんじゃないの?」

「俺達でできることなら協力するよ〜」

「あたし……が…………」

 

 那須と涼二が重ねて告げると、園花は迷うように、そして何故か怯えたように、如月の顔を振り返った。

「大丈夫……言っていいよ」

 励ましの言葉と共に、如月は微笑む。

 園花はぎゅっと拳を握りしめた。

 

 

「あたし……」

 

 

「どうしたんだ?」

「俺は絶対兄貴となんか組まないからな!」

「その話は多分お流れだよ」

「「??」」

 近付いてきた柳原と雄介も、園花に注目する。

 

 

 

「あたし……は……」

 

 

 

 

「借りるよ」

 如月が、雄介の手からラケットをすっと抜き取った。

 

 

「えっ? 如月さん!?」

 

 

 

 ぽーん、ぽーん。

 

 ボールを弾ませ、弾力を確かめている如月。

 彼はどうやら、もう、園花の答えを知っているようだった。

 

 

 

 

あたしは、もう一度テニスがしたい

 

 

 

 

 

「「「えっ!?」」」

「もう一度?」

 彼女の答えを待ちかまえていた一同は、驚きに声を揃えた。

 

 

 

 

「菊川、そのタイ貸してくれない?」

「えっ?」

 

 マイペースに、既に準備を整えていた如月は、ラケットを持たない左手を涼二に差し出してきた。

 

 

 唐突な要求に、驚いたのも確か。

 それ以上に、彼が驚かされたのは……

 

 

 

 

「淳……」

「そんなのまだ大したことないって。右「悠也!」」

 硬直する園花達に言いかけた柳原の言葉を、如月は、肘打ちと視線で封じ込める。

 

大したことじゃないから。それより、良い?」

「え、あ、うん」

 その圧力に気圧されて、菊川は「ほい」とラフにしめていたタイを手渡した。

 その間中、園花の視線は如月の右手を追っている。

 

 

「雄介、審判よろしく。悠也、菊川とコート入って。園花、ラケット持ったの?」

 如月は有無を言わせぬ勢いで指示を飛ばし、いつもつけるハチマキの変わりに、額に涼二のタイを巻き付けた。

 

 

「淳、あたし……やっぱり」

 園花は那須に差し出されたラケットを受け取らず、思い詰めた表情で口を開いた。

「くすくすっ今更怖じ気づいたの? 大丈夫、園花の実力を想定して組み合わせたからまともに打ち合いできるよ」

「淳!」

「僕なんかと組むより、那須とかと組んでみたい気持ちも解るけど、ワンゲームくらいは付き合ってくれるよね」

 

 如月ははぐらかすように笑うだけで、園花の言葉を続けさせなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして三十分後―――

 

 

「げ、ゲーム如月・日暮!」

 雄介は信じられない気持ちでその言葉を叫んだ。

 急造コンビとはいえ、ダブルス経験は相当積んでいる菊川と柳原が、熾烈なラリーの果てに、粘り負けでゲームを落とした。

 如月はともかく……ずっとラケットに触れていなかったという、しかも、女子である園花が、最後のポイントを決めたのだ。

 

 

「園花ちゃん、強すぎ〜」

 ボールを追ってダイブした体勢のまま、涼二は情けない声をあげる。

「淳が……二人いるみたいだった!」

 柳原は悔しそうに口を歪めた。

 

 スマッシュのポジションをフェイントにしての、ドロップボレー。

 如月が得意とするその技を、園花も当たり前のように自然に使って見せた。

 二人がかりでフェイントを入れられたときには、どちらが何をどう打とうとしているのかを、予測するのは困難。その上、顔は全く違っているのに、作戦を読ませないくすくす笑いも、まるで双子のように似通っている二人だった。

 

 

「「う〜……もうワンゲーム!」」

 

 篠宮の猫と神代のペンギンは、声を揃えてそう叫んだ。

 

 

 

 


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