I never say "good-bye"4

 

 

 

 

「こんなに打ち合いしたの、久しぶり!」

 フェンスにもたれかかりながら、園花は満面の笑みを浮かべて言った。

 試合は結局1セットマッチに変更になって、7−5で菊川・柳原ペアの勝利となった。

 園花のスタミナ切れが、その要因だった。

 

「女子でこんなに強い子、俺初めて見たよ〜」

「うん、僕も……」

「勿体ない! ブランクあってこれなら、きっと全国目指せるだろ」

 口々に園花のセンスを褒める涼二達。すると、園花は何故か、痛みをこらえるような顔になった。

 

 

「……当たり前。あたし、「超能力少女」だもん☆」

「園花」

 軽口を装って、うまくいかない。

 如月が咎めるように、彼女の名を呼ぶ。

 

 

「超能力で球筋なんてわかっちゃうし、超能力で球威だって増やせるんだから、強くなるのも当然でしょっ?」

園花!

 自虐的に笑う園花を、如月は声を強めて窘める。

 

 彼女自身に言われるまで、「超能力少女」ということを失念していた涼二達は、「そういえば……」と不正可能な彼女の能力に衝撃を受ける。

 

 

 

「でも……」

 那須は、ぽつりと声を漏らした。

 

 

「でも、さ。今、園花ちゃんは余計な力になんて頼っていなかったよね。園花ちゃんが見せてくれたのは、紛れもなく「テニスの実力」だけだったよね」

 

 

 ごく近くから試合を観戦していた那須には、園花が、ずば抜けた読みでボールをあしらったことも、フォームから逸脱した球威でボールを打ち返したことも、なかったと断言できる。

 

 ボールに与えられた回転は、そうなるべく角度と振りで彼女がガットを当ててやった結果だったし、普通のダブルスとは少し異なったフォーメーション は、彼女の動く癖(恐らく園花はシングルス中心できたプレイヤーだった)を知っている如月が、動きやすいようにフォローにまわった結果でしかなかった。

 

「そ、そんなの兄貴に言われなくたってわかってるよ!」

「そうだよ〜! 赤城のファントムとか芦辺のラストワルツの方がよっぽど怪しげじゃんか! 俺の動体視力を見くびるなよ!」

 ガシャン、とフェンスを揺らして、雄介と涼二が猛然と主張する。

 審判として、最も客観的な位置でプレイを見ていた雄介も、ポイント奪還を虎視眈々と狙っていた涼二も、自分の目に強い自信を持っていた。

 そして、柳原もまた。

 

「園花ちゃんは「スポーツマンシップに乗っ取って堂々と」試合してただろ」

 

 

 

「那須君……雄介君、菊川君、悠也君…………!」

 

 

 潤んだ目を瞠らせて、園花は口元を押さえた。

 彼らの信頼が、園花には予想外のものだったのだろう。

 

 

「あたしを……信じてくれるの?」

 

「勿論」

「当然〜」

「当たり前だろ?」

「君を信じてる……というより、自分の見たものを信じてる、のかも知れないけどね」

 

 それぞれの言葉で頷きを返し、彼らは園花に笑みを向ける。

 じわり。

 園花の目元に、涙の粒が盛り上がった。

 

 

 

 

「あたし……もっと早くみんなに会ってたら、テニスの方を選んだかも知れない……」

 

 

「園花……」

 如月は迷うようにゆっくり挙げた手で、園花の髪をくしゃりと撫でた。

「淳……あたし……」

 

 

 

 こぼれ落ちる涙の滴が、舗装されたブロックに小さなシミを作る。

 

 

 

 

「……プロダクション所属の稲枝プロデューサーが意識不明の重体……激しく揉み合った形跡から、行方不明の超常能力者兼タレント・SONOKAを狙った犯罪に巻き込まれた恐れが……」

「兄貴?」

「向こうの電光掲示板……」

 急に何かを読み上げだした那須に驚いた雄介達は、指し示されたビルの壁を振り返った。

 

 

 フラッシュニュースを流す電光掲示板。

 多分、この時間一番のニュースなのだろう。彼らが振り返ったときも、まだ那須が読み上げたとおりの文字が、ずらずらと流れていくところだった。

 

 

 

―――SONOKAを狙った犯罪……?

 

 けれど、ここにいるSONOKAは―――いや、園花は、自らの意志で如月の元へ現れたように見えた。

 

 

 

 

「あたし……あたし……は……!」

「わかったから、園花。僕が説明するから、違ったらそう言って」

 

 

 

 如月に宥められ、園花はこくんと首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

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