I never say "good-bye"5

 

 

 

 

「園花は地元ではわりと有名なプレイヤーだった。同じスクールの女子ではなかなか練習相手が見つからなくて、よく、男子に混じってラケット振ってて。

 だけど前から園花は霊感少女として地元局で取り上げられてもいて、その日も、取材が入っていた。

 スタッフと適当に選ばれた子供が、学校の中に隠した物を見つけていくっていうだけの企画だったんだけど、そこで事故が起こったんだ。

 

 

 野球部のボールが、高いところに立てていた照明機材を直撃して……園花の真上から、振ってきた。

 大怪我していたはずの園花は何故か無傷で、だけど勿論、その日の撮影は中止。その日から、園花は「超能力少女」って呼ばれるようになった。

 霊感少女なんて名前、あまり珍しくなかったみたいだけど、「その瞬間」を収めたテープもあって、「超能力少女」の評判は一気に、全国区の話題になった。

 

 

 番組の出演以来も増えて、園花がスクールに顔を出す機会も少なくなると、元々園花のテニスセンスに嫉妬していたような連中が、自分達が勝てない理由を「超能力」のせいにするようになっていった。

 落ち込む園花を、コーチやいっしょに練習してきた友達は励まし続けて……だけど、完璧な「超能力少女」のイメージ作りをしたいプロダクションは、 園花の使える力をあれもこれも捏造して吹聴したから、園花はどうしてもテニスかプロダクションかを選ばなくちゃいけなくなった」

 

「捏造って……」

「“自称”霊能力者が全部本物だったら、日本は霊能大国だよ、涼二」

「でもさ、別にそんなコトするくらいなら……」

 

「園花も多分、その時は捏造した分のネタ晴らしをして、きっぱり、そういうメディアから手を切ろうとしたんだ」

「でも、できなかった……?」

「どうしてだよ! 本人が止めたがってるのに」

 

 

「テニスを選べなくなったのは、これが、あるからだよ……」

 

 如月はそう言って、自らの額と、両手とをさらけ出した。

 

 

「「「―――!」」」

 皆、一様に息を呑んだ。

 元の作りが整って、色白であるからこそ余計、痛々しく目を引く、傷跡。

「淳―――!」

「そんな顔、しないで欲しいな。凄そうに見えるのは見かけだけなんだから」

 

 如月は苦笑して、涼二にタイを返した。

 

 

「事故は、もう一つあったんだ。

 そうやって園花が悩んでるとき―――僕と園花がネット越しにラリーしていたとき、ネットプレーでミスをした僕のラケットがすっぽ抜けて、ポールに当たって、砕けた。

 それだけで人目を引いたのに、運悪く、折れて尖った破片が、園花の顔に向かって……園花はただ、自分の身を守ろうとしたんだ。

 慌ててネットを飛び越えた僕が、軽率だっただけなのに。

 

 「力」で園花がはじき飛ばした破片が、僕の正面にあった。

 

 医務室で目を覚ますと、コーチは園花が退会届を出したことを教えてくれた。

 それから園花は、二度とテニスコートに近付かなかった。

 

 見かけより大した傷じゃなかったんだけど、園花がわざと僕に怪我をさせたと憤慨する連中と、僕のせいで園花がテニスを止めたんだって文句を言ってくる連中にうんざりしていたところに、神代から誘いがかかって、僕はあっさり転校を決めた。

 園花が時々見舞いに顔を出して、そのたびに傷のことを気にするから、前髪を伸ばして、手袋をして、傷跡を隠すようになった。

 

 僕は、「超能力少女」のSONOKAが、やらせのニセ能力しかテレビに見せないようになったことに気付いた。

 園花のことだから、僕の傷を気にして、その「力」を簡単に使わないように決めたんだと思った。

 

 

 テレビの業界なんてよくわからないけど、いろいろ「お約束」があるらしいから、はじめはそれでうまくいったんだ。

 けど、そのうち、その「お約束のやらせ」を盾に、「自称能力者」達を食い物にする奴に目を付けられて……トリックを黙っている見返りに、何か―――こんな報道がされるぐらいだから、多分、園花の身体を、強要された。

 

 

 テニスはもう選べない、ここまで知名度が上がってしまえば、どこに行っても「超能力少女」の名前はついてまわる……随分と悩んで、それでも、こんな無理矢理犯されるなんて事には耐えられなかったから、園花は、「力」を使って脅迫者から逃げることしかできなかった。

 事務所に行けば、「口を噤ませる代わりなら一度くらい」と追いやられるかも知れない。

 だから、園花は、東京にいる知り合いの中でも、僕のところに逃げてきた」

 

 

 


BACK HOME NEXT

 

 

 

(02-12-07)→(06-10-26)修正