I never say "good-bye"6
「……」
「……んだよ、それ!」
黙って続きを聞いていた一同の中から、憤りに満ちた声があがった。
園花は、否定の言葉も肯定の言葉も、発しなかった。
ということは、概ね、如月の発言内容を認めたということ―――
「これからどうするのか、当てはあるの?」
弟と同じ憤りに表情を硬くしながら、那須は敢えて現実的な問いかけをした。
義務教育を要する年齢で、園花の今の立場を具体的に救済できる方法など有りはしない。
せめてもの救いは「力」を使っての行為が、法的に立証不能だろうということと、「正当防衛」という主張ぐらいか。
「彼女の身柄は、我々が預かります」
不意に、那須達の背後から男の声がした。
振り返れば、揃いのスーツに身を包んだ男達がずらり、彼らの周りを取り囲んでいた。
「お別れは十分に済ませましたか? もうあまり時間が残されていない」
先頭の男が身を屈め、園花に問いかける。
園花は手の甲でごしごし顔を拭うと、如月の額に手を伸ばした。
「せっかくのいい男、台無しにしてゴメンね。両手も……淳があたしの気持ち気にしながらテニスしてたの、知ってる」
「僕はテニス、一生止めないよ。だからいつかまた一緒にプレイしよう」
園花はそれから、今日の時間を共に過ごした一人一人に、別れの言葉を告げた。
「みんなに会えたからわかった……あたしはあの時、どこに行っても、何言われても、大好きなテニス選べば良かったんだって
有り難う。
あたし、行くね」
最後に全員に向けて言葉を伝えた園花は、スーツの男に頷いて、如月達のそばを離れる。
男は園花の肩を抱いて、周囲の目から彼女の姿を隠すように、スーツ連中の間へと園花を押し込んだ。
「彼女は……園花ちゃんはどうなるんですか?」
問いかけたのは那須だった。
「ほとぼりが冷めるまで、我々が責任を持って預かります。能力のコントロールも含め、彼女が社会に復帰するのには時間がかかる―――芸能プロダクションには手出しをさせませんから、ご心配なく。ああ、あの腐れプロデューサーの治療も含めて、ですか」
「って、おっさん達は何者なんだ?」
「雄介、おっさん呼ばわりは気の毒だよ」
「兄貴知ってるのか?」
「え? 那須知ってるの!?」
「おしえろよ!」
「あのっ!」
問いかけの矛先を那須に変えていく雄介達にふっと微笑んで、踵を返した男を、如月は思わず呼び止めた。
「何か……」
「……園花に……彼女に、伝えてくれませんか? 「ホントはシオも、そんなに嫌いじゃなかった」って……」
振り返られた後で何を言おうとしていたのかわからなくなって、如月は迷った末にそう言葉を続けた。
「確かに」
男は短く首肯し、如月に背を向けて歩き出した。
(02-12-07)→(06-10-26)修正