児童公園・ペットショップにショッピングモール。連れ回されるうちに彼は何かに勘づいたのだろう。何か問いただそうとする淳の視線を避けるように、園花は彼の腕を解放した。

 公園のベンチで、二人は知り合った。

 急に余計なものを見る力に目覚め、それがコントロールできずに苦しんでいた園花は、当時通っていたスポーツクラブ、そのジュニアコースの始まる前の、ちょっとした時間に、同じ歳の淳と知り合った。

 彼もまた、同じクラブの、同じコースに通っていたのだ。

 出会ってからは、何となく気が合って、いつも待ち合わせて同じ時間のレッスンを受けるようになった。

 

 厳しいレッスンの後には、ショッピングモール。面子によっては、ペットショップ。

 同じコースの友人達と、わいわい騒ぎながら寄り道して帰った。

 今よりずっと幼い子どもだったから、実際の買い物なんて滅多にできなかったのに、今度こそあれを買うとか、この前のやつはどうだったとか、言い合うだけでずいぶん盛り上がった。

 ペットショップに並ぶチビ達が、誰に似ているとか似ていないとか、他愛のない話題に爆笑したり。(それで、その時いた仲間達はみんな犬とか猫と か、双子である尊ですら一般的なペットに当てはめられたのに、淳一人がトカゲか何か、爬虫類の生き物に例えられて、膨れかえったのだ。そのいきものを話に 持ち出してきたのが、園花だった)

 

 園花は楽しかった時間を懐かしむように、向かう先を選んでいた。同じ過去を共有する淳が、それに気付かないわけがなかった。

 

 

 

I wish you were fear

 

 

 淳の友人達の輪に埋もれた園花が次に目指したのは、ショッピングモールからほど近い、広々とした公園だった。

 

「へぇ。じゃあ、淳とは試合会場で知り合ったんだ?」

 自分は今うまく笑えているんだろうか、そう悩みながら、園花は明るい声を出す。

 彼らが皆同じ学校なのではないと、知ってしまったからには、出会いの契機を訊ねないわけにもいかなくて。

「そうだよ。ウチの学校と対戦したとき。雄介がちっとも連絡くれないから、どんな先輩に囲まれてるのか気になっていたんだけどね」

 はじめに眉を顰めていたのが嘘のように、問われた章介は愛想の良い笑みを返す。真っ赤な顔でそれにくってかかるのは、彼の実の弟だという雄介。

 仲良し兄弟の言い争いに、園花も今度は本当に笑みを浮かべることができた。

 

 

 

 複雑な思いの残るもの。
 淳を傷付けた、一つのきっかけ。
 けれどそれは、今もなお憧憬を持たずにいられないもので
 彼から奪いはしなかったかと、ずっと恐れ続けていたもので。

 

 

 

 

「こいつ、兄貴と対戦したくてわざわざ転校までしたんだよん♪ すっげー負けず嫌い。俺らもだけど」

「なっ! 余計なことっ!」

「打倒兄貴が口癖のヤツが、今更隠そうとすることなんてないだろ」

「だーろっ」

 雄介の脇からひょこりと顔を出した涼二が、悠也と一緒になって友人の弟をからかいにかかる。人懐っこい彼らだから、学校は違えども、すぐにこうし て友情をはぐくめたのだろう。にこにこ楽しげな笑顔で話す先輩達には本気の怒りまでは向けられないらしく、雄介は膨れっ面でそっぽを向いてしまう。身長は あれども、そうした彼の態度は明らかに年下然していた。

 

「大丈夫だよ。雄介くんの見込み早そうだし、それに、体格だってテニス向きでバランスいいじゃない? そういうのって本人の希望や熱意じゃどうにもならない資質なんだから」

 だから園花は、クラブ活動をやっていた昔を懐かしむように、少しだけ遠い目をして、そう、友人の後輩に微笑みかけた。

 

 

「…………ねえ、もしかしてソノカちゃんって、結構なテニス好き?」

 雄介が微かに赤らんだ顔で「どうも」とか何とか呟く横で、じっと二人を見つめていた涼二が、ふと眉を寄せて訊ねた。

 

え?

 強張りはしないかと思った笑顔はどうにか保ったまま、園花は努めて何でもないことのように聞き返す。

「俺達は結局テニス馬鹿だから、雄介の体格見て「テニス向き〜」とか思っちゃうけどさ、上背あったり均等に筋肉ついてんのって、別にテニスに限らない、大抵のスポーツで有利なところじゃん。テニスやってるんじゃないソノカちゃんがそんな言い方するなんて、よっぽどテニス見るのが好きなのかな〜って思ったんだけど、違ったかにゃ?」

 可愛らしく小首を傾げる仕草に見合った、涼二の無邪気な口調。園花はちらり、と、離れた場所で雄介の兄と話している淳の横顔に目をやってから、苦笑に混ぜた溜息を吐いた。

 

「そう……かな。結構忙しいこと多いから、考えてみたこともなかった

「へ〜え。げーのーじんってやっぱり大変なんだー」

 妙なところで感心する悠也達が、園花の笑顔のぎこちなさに気付いたようには見えなかった。

 

 

―――そんなのは、嘘だ。

 考えたくないから、思い出したくないから、だからわざと、忙しくしていた

 

 

 

 園花は頭の裏側で、どう話を逸らそうかと考えながら、

「それも好きで始めたことだし」

と相槌を打つ。

 涼二の瞳がきらきら輝いた。

 

 

「じゃあさっこれからみんなでテニスしない?!」

えっ―――

「折角コートある公園にいるんだし、時間、今日ならあるんでしょ? そりゃジャージじゃないし、公式試合みたくはいかないけど、俺達みんな強豪チームのレギュラーなんだし、結構面白い試合できると思うんだけど〜」

「そいつぁ名案だなっ」

 涼二の提案に真っ先に同調したのは、悠也だった。

「っつーか、みんなスニーカーだからいいとして、ラケットとボールがないんじゃテニスにならないんじゃないすか?」

 もっともなつっこみを入れる雄介も、その案に反対しているわけではないようだ。ゲームを始めたくてうずうずしている、そんな仕草は見ればわかる。

 

 まさに、彼らはテニス狂い。

 

「へへっ心配ないない」

 涼二は得意げな顔で、公園のある一点を指した。

 

 

 


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