私達がその公園に到着したとき、辺りはすっかり荒れ果ててしまっていた。あの、緑溢れる公園の面影は殆どない。
外から見たときにはそれ程ひどいこともなかったのだが、駐車場から公園内部へ下りていくと、そこはかなり悲惨な状況になっていた。
「……げろ……何これ……」
池の水は腐臭を放ち、その中には、水鳥であったろうものが、半ばとろけた、無惨な姿を漂わせている。
「お食事の時間ってトコかね」
《湖泊》は嫌悪感も露わに呟く。
全く、気持ちのいいものではなかった。
「……行こう、さっさと」
私達は、ぽっかりと開いた空間の穴を目指して、更に奥へと歩き始める。
「気をつけて。低級、下級……中級……もしかしたら、上級も紛れ込んでいるかもしれない」
暫く行くと、《風牙》はそう注意を促した。
言われるまでもなく、背中にピンと一本の線が通る。不安とは違う種の緊張感が、私の全身を覆っていく。
───来る!
木立の陰から、青緑のアメーバ状の低級妖霊が、ぼたぼた飛んできた。
いつもなら、こんな場面は《狙撃手》の担当……
びゅおうっ
思ったとき、背後から強い風が吹き付けた。
突風は髪を煽り、妖霊共を細切れに吹き飛ばす。
「任せて」
《風牙》の声だった。
成る程。これが、彼の能力か。
風を操る能力者の存在は知っていたけど、彼の力はかなりレベルが高いようだ。多少強い風を感じる意外、味方である私達には影響していないのだが、妖霊共に対しては覿面の効果を現している。
私と《湖泊》は互いに頷き合って、並んで前方へと走り出した。
雑魚共は《風牙》が片付けてくれる。だから私達は、安心してホールの中心へと向かった。
正直な話、いつ自分にとばっちりが来るか分からない、誰かさんの能力よりも、よっぽど安心して後方を任せられた。
って、そういえばあの男は?
「とりあえず、反対の入り口は封鎖してきた」
突然の声に横を向くと、いつの間にか《湖泊》の向こうに《狙撃手》の姿がある。
「入り口の、封鎖……?」
私が思わず聞き返したのは、覚えている限り、この人にそんな力はなかったからだ。
「……」
しかし、返答はない。
私自身、あまり相手に話しかける気にもなれなかったので、それ以上の言葉は何も口にしないことにした。むしろ、この際、この男はいないものとして考えた方がいいのかもしれない。
「《智依名》!」
「……破っ!」
促されて短刀を払う。
こういったタイミングは、パートナー殿に較べて、よっぽどうまくいく。
「ていっ」
「やぁ!」
暗黙の了解で、左右に散って力を放つ。気心が知れているからこその連携、確認不要のコンビネーション。
「───!?」
しかし、不意に《湖泊》は息を飲んだ。
丁度目の前の下級妖霊を相手にしていた私は、流石にワンテンポ遅れてそれに反応してしまう。
それは、だが、取り返しのつかないような…………
びゅびゅんっ
立て続けに、くないが左手後方から飛んだ。
気迫の鋭さに、慌ててその行方を目で追いかける。
瞬間。
「─────!?」
私も、息を、飲んだ。
アオミドロの、巨大な物体の中には、確かに人影が……!!
「お願いっ!」
私はそうだけ言うと、他に何も考えずに、それめがけて走り出していた。
私を追い越して飛ぶ《湖泊》のくない。溢れる、緑色の液体……ヤツは逃走を企てる。
すぐそこには、大口を開けた次元の穴。
ビシュッ!
直前、負荷に耐えられなくなった、ヤツの全身がはじけた。
私は頭からクロレラを被ったみたいに緑色。
うへぃ、ねばねばする〜
「てぃ!」
さっきの人は?!
気合いでそれらを払い除けた私は、急いで周囲を見渡した。
すると──
「笹本!?」
悲鳴に似た声が《湖泊》の口から漏れ。
え、さ、笹本!?
慌てて視線を彷徨わせると、まさに、ホールの真上に、笹本の姿───
さっきの破裂で、はじき飛ばされたに違いない。
このままでは笹本は……
「!」
私はそれ以上何も考えずに、ホールの中に身を躍らせた。
「「《智依名》!?」」
二人が私を呼ぶ声を、背中に追いやって。
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