突然の浮遊感、無意識に笹本を支える手に力を込める。
……空気抵抗。
顔面を、強風が打ちつける。
「《智依名》!」
声がした。
よく聞き慣れた……
……多田のっ!?
ばちっと目を開く。
重力の法則に従って落下する私の視界に、《風牙》や《湖泊》、それに、《皓樹》や《鷹》の姿までが入ってくる。
びゅおう……
足元を強風が掬った。
ほんのわずか、浮遊感が甦る。《風牙》が、だっと駆け寄ってくる。
「その子を、こっちに!」
差し延べられる、手。
私は思いきって笹本から手を離した。
笹本を、風がさらっていく。その行く先を見届けながら、回転して体勢を立て直そうとしたとき(当然、いつの間にか頭が下になっていた)……
眩暈が、した。
バランスが崩れるっ
それでも、受け身だけは取ろうとして。
バッシャァァン。
私は、水の中に突っ込んだ。
ぶくぶくぶく……
し、沈んでしまっえ、でも、み、水ぅ!?
焦っている間に、がっしと両足を掴まれた。
誰かが、肩を支える。
そして、べちゃり。
私を取り囲んでいた液体は、剥がれ落ちた。
恐る恐る目を開けると、《水霊》の心配そうな顔があった。
そう、か。
彼の、能力……
道理で、歩道のど真ん中に水が噴き出したわけだ。
《風牙》が風を使うように、《水霊》は水を使役することができる。その力に、またしても助けられたのだ。
「重いぃっねーちゃん、足、下ろすぞぉ」
ちょっとむかっ。
足元からは、《電脳師》の声だった。
そろっと地面に降り立つと、みんながわらわら集まってくる。
「沖野ぉっさぁさぁもぉとぉぉぉぉっ」
タックルする勢いで近付いてきたのは、《灯海》。すっかり泣きはらした目をしている。私は疲れ切った笑みで、彼女に答えた。
笹本は、《風牙》がしっかり抱き留めてくれていた。首を巡らせてみると、彼は笹本を抱えたまま、駐車場へと上って行くところだ。足取りを見る限り、何の危険要素もなく、笹本はただ意識を失っているだけのようだった。
……助……かったんだ……
初めて実感する。
あの繭に閉じこめられたときとはまた違った緊張感が、今頃になって訪れる。膝はがくがく震え始める。あんな危険な賭を、よくする気になったものだ、と自分でも呆れ、そして不意に、アキムの言葉が甦った。
彼は、何て、言った……!?
「だっ大丈夫ですかっ!? 《智依名》っ」
崩れ落ちかけた私の耳元で、《水霊》の声がした。私は殆ど無意識に、呟くように口走っていた。
「会った……美弥さん……知ってる…………」
倒れる。
引き起こす、誰か──
──ああ、三田少年。
ごめんなさい。
でも…………
(……私はそのまま気を失ってしまった)
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